今年、新潟県中越地方の海岸をあちこち歩き回っていて、グンバイヒルガオ Ipomoea pes-caprae を数カ所で見つけた。熱帯から亜熱帯に広く生息する海浜植物で、たまに種子が流れ着いて発芽することは知っていたが、実物を目にしたのは初めてだったので、ちょっと驚いた。
本サイトの宝閑自然誌ページで、私がグンバイヒルガオを確認した地点を見ると、長岡市寺泊、出雲崎町、柏崎市(西山町)石地海岸あたりである。(2024年10月末時点)
過去に県内のどこでグンバイヒルガオが見つかっているのだろうか。ネットで軽く調べてみた。
自然史標本データベース
自然史標本のオンライン情報を探すならば、まずはGBIFだろう。Ipomoea pes-caprae (L.) R.Br.のページを見ると、全世界の亜熱帯から熱帯に広く分布していることが分かる。しかし日本海側の標本は出てこない。
このGBIFの標本データの国内分は、国立科学博物館のサイエンスミュージアムネットが情報源となっている。なので次にそれを見てもいいが、どうせ同じデータを見るのならジャパンサーチで地図表示させたほうが分かりやすい。
ジャパンサーチを開いて、検索ボックスに「グンバイヒルガオ」と入力して横断検索する。次に「データベース」をクリックして「サイエンスミュージアムネット」で絞り込む。この状態で106件ヒットした。さらに「場所」をクリックして「地図で検索」ボタンを押下する。これで標本の(おそらく採集場所)が地図上に表示されるようになる。地図の右上にある「地図を動かしたら自動で再検索」チェックをオンにしたほうが探しやすい。
この結果を見ても、やはり本州日本海側の標本は見つからない。なお秋田県内にある標本は、秋田県立博物館に収蔵されている沖縄県産の標本である。
地方植物誌の書籍
次に新潟県内の植物分布に関する書籍を探してみる。以下ほとんどは国立国会図書館デジタルコレクションで探した。(ユーザー登録が必要なページもあるので注意)
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県内の植物分布に関する一番古い資料は『新潟県天産誌』(中村正雄, 1925)である。植物名のリストを見ると29ページに「ハウチハカツラ、グンバイヒルガホ Ipomoea bibloba」の項があった。場所は「郷本海濱(三島)」なので、現在の地名でいえば長岡市寺泊の郷本海水浴場あたり。「分布上珍ラシキモノナリ」という記載がある。大正期にも確認されていたようだ。
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『越後の植物誌』(野田光蔵, 1968-1971)を見たが、グンバイヒルガオの項目は見当たらない。
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『新潟県植物事典』(野田光蔵, 1981)の100ページにグンバイヒルガオの項目があった。佐渡の西海岸素浜、県北の馬下海岸で生育していた、という記載がある。
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『新潟県植物分布図集』(石沢進 編, 1990)も探したが、グンバイヒルガオの項目は見つからなかった。いわゆる国内帰化植物なので、省略したのかもしれない。
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新潟大学学術リポジトリで公開されている『新潟県植物目録チェックリスト予報』 被子植物 双子葉植物 (2004)を見ると、42ページ目にグンバイヒルガオの項目が見つかる。ただし植物名だけで分布情報はない。
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『柏崎の植物』柏崎市教育委員会(1981)の38ページには、荒浜海岸でグンバイヒルガオが見つかったという一文があった。
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『柏崎・刈羽の山野草 2版』(柏崎植物友の会, 1986)も見たが、グンバイヒルガオの項目は見当たらない。
以上、グンバイヒルガオの項目があったのは『新潟県天産誌』、『新潟県植物事典』、『新潟県植物目録チェックリスト予報』、『柏崎の植物』の4件で、具体的な地名まで記載されていたのは『新潟県天産誌』、『新潟県植物事典』、『柏崎の植物』の3件だった。
その他オンライン情報
ネットで探していたら、県内のグンバイヒルガオに関する記載がいくつか見つかった。
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「外来種~変貌する潟の環境と生物相(1)| 潟のデジタル博物館(新潟市公式)」というページには「海岸で稀に見つかる」という一文がある。
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「石黒の昔の暮らし」にあるグンバイヒルガオというページには、柏崎市内で見つけたグンバイヒルガオについての観察記録がある。このページがもっとも情報量が多い。
海辺のエフェメラル
一応まとめると、新潟県内でのグンバイヒルガオ分布について、まとまった情報は見当たらない。それでもいくつか断片的な情報は見つかった。
県の沿岸部には広大な砂浜が広がっているので、きちんと探せば広範囲で見つかるはず。とはいえ県内ではグンバイヒルガオはほぼ越冬できないので、毎年のようにどこかに現れては、静かに消えているのだろう。まるで幻のように儚い存在と思える。